公正証書遺言
1、公正証書遺言とは?
(1)公正証書遺言とは?
① 公正証書遺言とは、遺言者が証人の立ち会いのもとに遺言の内容を公証人に口頭で述べて、公証人が遺言者に代わって遺言書を作成する方式によって行う遺言です。
② 「遺言書の内容」を公共の機関に記録として残せる点に最大の特徴があります。
③ 公正証書遺言の場合、遺言書を作成する場所は、原則として、公証役場になります。
(2)公証人とは?
① 公証人とは、国の公務である公証事務を担う公務員です。
② 公証人は、原則として、判事や検事などを長く務めた法律実務の経験の豊かな人で、公募に応じた人の中から、法務大臣が任命することになっています。
2、公正証書遺言が認められるための条件
公正証書遺言が認められるための主な条件は、以下のとおりです。
① 2人以上の証人の立ち会いがあること。
未成年者は、証人になることができません。
また、推定相続人(相続人となる予定の者)及び受遺者(遺贈を受ける者)並びにそれらの配偶者や子供や親などは証人になることができません。
② 遺言者が遺言の内容を公証人に口頭で述べること。
遺言者が口がきけない人の場合、「通訳人の通訳」によったり、「自書した書面(筆談)」で遺言の内容を公証人に伝えることができます。
③ 公証人が、遺言の内容を筆記して、その上で、筆記した内容を遺言者及び証人に読み聞かせるか、または、閲覧させること。
④ 遺言者及び証人が、筆記された内容が正確であることを承認した後、筆記された書面に署名・押印をすること。
遺言者は、特段の事情のない限り、「印鑑証明書」を提出した上で「実印」で押印する必要があります。
証人は、認印で押印してもよいことになっています。
遺言者が署名することができない場合には、公証人がその理由を付記することをもって、遺言者の署名に代えることができます。
⑤ 公証人が、筆記した書面が法律上の方式に従って作成したものであることを付記して、署名・押印をすること。
3、公正証書遺言のメリット・デメリット
(1)公正証書遺言のメリット
① 公証人が遺言書を作成する。
自筆証書遺言の場合には、原則として、遺言者が遺言書の「全て」を「自書」しなければならないことから、長文になる場合には、それなりの「労力」などが必要になります。
これに対して、公正証書遺言の場合は、公証人が遺言書を作成しますので、遺言者に掛かる「労力」などを減免できます。
② 遺言書の存在・内容が公共の機関に記録される。
自筆証書遺言の場合には、「遺言書の存在や内容」を公的に記録することができません。
秘密証書遺言の場合、「遺言書の存在」は公証役場に記録されますが、「遺言書の内容」は公的に記録されません。
これらに対して、公正証書遺言の場合は、遺言書の原本が公証役場に保管されて、「遺言書の存在や内容」が公共の機関に記録されます。
これにより、「紛失や消失のリスク」がなくなります。また、利害関係人などによる「偽造・隠匿・廃棄のリスク」もなくなります。
なお、公正証書遺言をすると、公証役場から遺言書の正本及び謄本が交付されます。
その後、遺言書の正本や謄本を紛失又は消失しても、遺言書の謄本の再発行の請求ができます。
また、遺言者の死亡後、相続人などの利害関係人は、公証役場に「遺言書が作成されて保管されているのか?」について照会することができます。
(注)2018年7月6日の民法改正により、法務局が自筆証書遺言書を保管できる制度が設けられることになりました。
ただし、この制度は、2020年7月に実現することになっております。
③ 遺言書の内容の表現が曖昧であったり、法定の方式に違背して作成されることによって無効になることのおそれがない。
自筆証書遺言や秘密証書遺言の場合には、遺言者が単独で遺言書を作成できることから、遺言書の内容の表現が曖昧であったり、法定の方式に違背して作成されることによって、無効になることのおそれがあります。
これに対して、公正証書遺言の場合は、公証人が遺言書を作成しますので、遺言書の内容の表現が曖昧であったり、法定の方式に違背して作成されることによって無効になることのおそれがなくなります。
(注)2108年7月6日の民法改正により、法務局が自筆証書遺言書を保管できる制度が設けられることになりました。
この制度は、法務局が署名や押印などの遺言書の最低限の形式を確認することも含んでいます。
ただし、この制度は、2020年7月に実現することになっております。
④ 「検認」を行う必要がない。
「検認」とは、遺言者が死亡した後、遺言書が偽造や隠匿や廃棄されたりするのを防ぐために、家庭裁判所が相続人などの立ち合いの下に遺言書の内容などを確認して記録として残す手続です。
自筆証書遺言や秘密証書遺言の場合には、遺言者が亡くなった後、遅滞なく家庭裁判所で「検認」を行う必要があります。
これに対して、公正証書遺言の場合、「検認」は不要とされています。
これにより、公正証書遺言の場合、遺言者が亡くなった後、迅速に遺言の内容を実現できます。
(注)法律上、自筆証書遺言書や秘密証書遺言書の保管者などが、遺言者の死亡を知った後、遅滞なく家庭裁判所に「検認」の請求をしなかったり、あるいは、「検認」を経ずに遺言の内容を実現した場合、「過料の制裁」が科されることがあります。
(注)2018年7月6日の民法改正により、法務局が自筆証書遺言書を保管できる制度が設けられることになりました。
なお、法務局に自筆証書遺言書を預けた場合、家庭裁判所での「検認」が不要になります。
ただし、この制度は、2020年7月に実現することになっております。
※「検認」の詳細については、「相続手続のHP」の「検認」のページを参照してください。
(2)公正証書遺言のデメリット
① 原則として、指定された日時に公証役場に行って作成する。また、必要資料の収集や公証人との打合せの負担がかかる。
自筆証書遺言の場合には、遺言者が、いつでも、どこでも遺言書を作成することができます。
これに対して、公正証書遺言の場合には、原則として、遺言者が指定された日時に公証役場に行って遺言書を作成することになります。
また、遺言書を作成する当日までに「公証人から指示された資料」を収集したり、「公証人との打合せ」をすることになります。
② 2人以上の証人が必要である。
自筆証書遺言の場合には、遺言書を作成するにあたって証人は必要ではありません。
これに対して、公正証書遺言の場合には、原則として、遺言者が証人を2人以上を用意する必要があります。
③ 公証役場に支払う費用がかかる。
自筆証書遺言の場合には、専門家にサポートの依頼した際の費用以外はかからないことになります。
これに対して、公正証書遺言の場合には、公証人役場に支払う費用がかかります。
④ 遺言書の存在・内容を秘密にすることができない。
自筆証書遺言の場合には、遺言書を作成するにあたって証人は必要ではないため、「遺言書の存在及び内容」を完全に秘密にすることができます。
秘密証書遺言の場合、「遺言書の存在」を秘密にすることはできませんが、「遺言書の内容」を秘密にすることはできます。
これらに対して、公正証書遺言の場合、遺言者が公証人に対して遺言の内容を口頭で述べる際に証人が立ち合うことから、「遺言書の存在や内容」を秘密にすることができません。
4、公正証書の遺言書が完成されるまでの流れ
(1)遺言者が遺言の原案を考える。
まずは、遺言者が「誰に何を相続させるか。」などの遺言の原案を考えます。
なお、考えた内容はできる限り詳細に書面に記載しておきます。
(2)公証役場に行って遺言書の作成の依頼をする。
遺言者の代理人から依頼することもできます。
(3)必要書類を収集して、公証人に提出する。
遺言者又は遺言者の代理人は、公証人から指示された必要書類(戸籍謄本・住民票・登記事項証明書)を収集して、公証人に提出します。
(4)公証人と遺言の内容について打ち合わせをする。
遺言書の作成日の当日に混乱が生じないようにするために、遺言者又は遺言者の代理人は、公証人と「誰に何を相続させるか。」などの遺言の内容について詳細な打ち合わせをします。
公証人との打ち合わせは、遺言の内容などによっては、何度も行うことがあります。
(5)証人を決める。
原則として、遺言者が二人以上の証人を用意する必要があります。
ただし、遺言者が証人になってくれる人をみつけられない場合などには、公証人が証人になってくれる人を紹介してくれます。
(6)公証人から遺言書の作成日及び作成場所が指定される。
公証人は、遺言者及び証人の都合を聞いた上で、遺言書の作成日を指定します。
原則として、遺言書の作成場所は、公証役場となります。
ただし、遺言者が病気又は高齢等のために体力が弱り公証役場に行くことができない場合などには、公証人が病院・自宅などに出張することによって作成することができます。
(7)当日、遺言者は2人以上の証人と公証役場に行く。
(8)法律で定められた方式に従って遺言書を作成する。
法律で定めらた方式に従って遺言書を作成します。
具体的には、以下の順番で遺言書が作成されます。
① 遺言者が遺言の内容を口述して、その内容を公証人が筆記する。
(ただし、公証人が事前の打ち合わせに基づいて予め遺言の内容を記載した書面を作成している場合が多い。)
② 公証人が筆記した内容を読み上げて(または、閲覧させて)、遺言者及び証人がその内容の正確性を確認する。
③ 遺言者および証人が署名・押印をする。
④ 公証人が、筆記した書面が法律上の方式に従って作成されたものであることを付記して、署名・押印をする。
(9)公証人から遺言書の正本・謄本が交付される。
遺言者が所定の費用を公証役場に支払った後、遺言書の正本・謄本が交付されます。
なお、遺言書の原本は公証役場に保管されます。
5、公正証書遺言をする場合に注意すべきこと。
(1)公証役場以外でも遺言をすることができる。
公正証書遺言をする場合、原則として、遺言書を作成する場所は、公証役場となります。
ただし、遺言者が病気又は高齢等のために体力が弱り公証役場に行くことができない場合などには、公証人が病院・自宅などに出張することによって作成することができます。
なお、この場合、通常の公証役場に支払う費用が増額されることに加えて、公証人の日当代と交通費が発生します。
(2)公証役場を自由に選ぶことができる。
遺言書を作成する公証役場は、遺言者が自由に選ぶことができます。
例えば、沖縄県に住む人が、北海道にある公証役場に遺言書の作成を依頼することができます。
(3)公証役場に必要な資料を提出すること。
公正証書遺言をする場合には、下記の資料などを公証人に提出する必要があります。
① 遺言者本人の印鑑証明書
② 遺言者と推定相続人(相続人となる予定の者)の続柄が分かる戸籍謄本
③ 相続人以外の人に遺贈する場合には、その人の住民票(法人の場合には資格証明書)
④ 対象財産の中に不動産がある場合には、登記事項証明書及び固定資産評価証明書など
⑤ その他、公証人から指定されたもの
(財産に関する明細書・証人になる予定の人の氏名・住所等のメモ書きなど)
(4)公証役場に費用を支払うこと。
公正証書遺言をする場合、公証役場に費用を支払う必要があります。
この費用は、下記のとおり、「手数料令という政令」で定められています。
① 遺言の目的たる財産の価額に対応する形の手数料
目的財産の価額 | 手数料の額 |
---|---|
100万円まで | 5000円 |
200万円まで | 7000円 |
500万円まで | 1万1000円 |
1000万円まで | 1万7000円 |
3000万円まで | 2万3000円 |
5000万円まで | 2万9000円 |
1億円まで | 4万3000円 |
1億円を超え3億円まで | 5000万円までごとに1万3000円を加算 |
3億円を超え10億円まで | 5000万円までごとに1万1000円を加算 |
10億円を超える部分 | 5000万円までごとに8000円を加算 |
② 上記の基準を前提に、具体的に手数料を算出するには、下記の点に留意が必要です。
(一)財産の相続又は遺贈を受ける人ごとにその財産の価額を算出し、これを上記基準表に当てはめて、その価額に対応する手数料額を求め、これらの手数料額を合算して、当該遺言書全体の手数料を算出します。
(二)遺言加算といって、全体の財産が1億円以下のときは、上記(一)によって算出された手数料額に、1万1000円が加算されます。
(三)さらに、遺言書は、通常、原本、正本、謄本を各1部作成し、原本は法律に基づき役場で保管し、正本と謄本は遺言者に交付します。
原本についてはその枚数が法務省令で定める枚数の計算方法により4枚(法務省令で定める横書の証書にあっては、3枚)を超えるときは、超える1枚ごとに250円の手数料が加算されます。
また、正本と謄本の交付にも1枚につき250円の割合の手数料が必要となります。
(四)遺言者が病気又は高齢等のために体力が弱り公証役場に赴くことができず、公証人が、病院、ご自宅、老人ホーム等に赴いて公正証書を作成する場合には、上記(一)の手数料が50%加算されるほか、公証人の日当と、現地までの交通費がかかります。
(注)具体的に手数料の算定をする際には、上記以外の点が問題となる場合もあります。
※ 上記の基準に従って、具体例を一つ挙げておきます。
(Ⅰ)遺言者が2人の証人を用意して公証役場に行って遺言書を作成しました。
(Ⅱ)「相続財産の総額が5000万円で、妻に2000万円・長男に1000万円・次男に1000万円・三男に1000万円をそれぞれ相続させる。」という内容の遺言書(3枚)を作成しました。
(Ⅲ)遺言書の正本と謄本(1通)の交付を受けました。
(Ⅳ)概算で、公証役場に支払う費用の合計は「金8万6500円」になります。
(5)専門家にサポートの依頼をするメリット
司法書士や弁護士などの専門家に遺言書の作成のサポートを依頼すれば、「公正証書遺言のデメリット」などについては、下記のとおり、回避することができます。
① 「公証人との打合せ」や「必要な資料の収集」の負担を回避できる。
公正証書遺言の場合には、遺言書を作成する当日までに、「公証人との打合せ」をしたり、「公証人から指示された資料の収集」をする必要があります。
この点、公証人の方達の中には、大変熱心で親切な人がたくさんいます。しかし、必ずしもそうではないのではないかとも思える方がいることもあり、「公証人との打ち合わせ」などがスムーズにいかないこともあります。
また、必要書類(「全部事項証明書」等)の収集についても、一般の人にとってはそれなりの負担がかかるともいえます。
この点、司法書士や弁護士などの専門家に遺言書の作成のサポートを依頼すれば、「公証人との打合せ」や「必要な資料の収集」を代行してくれますので、このような負担を回避することができます。
② 証人を用意しなくて済む。
公正証書遺言の場合には、原則として、遺言者が証人を2人以上を用意する必要があります。
この点、司法書士や弁護士などの専門家に遺言書の作成のサポートを依頼すれば、専門家自身が証人になったり、証人を用意してくれますので、このような負担を回避することができます。
③ 遺言書の内容・存在を秘密にすることができる。
公正証書遺言の場合、遺言者が公証人に対して遺言の内容を口頭で述べる際に証人が立ち合うことから、「遺言書の存在や内容」を秘密にすることができません。
ただし、司法書士や弁護士などの専門家に遺言書の作成のサポートを依頼すれば、専門家自身が証人になったりしてくれますので、「遺言書の存在及び内容」を秘密にすることができます。
※ 司法書士や弁護士などの専門家には「法律上の守秘義務」があります。また、公証人にも、「法律上の守秘義務」があります。
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