遺言書に記載できる内容
1、「法定遺言事項」
「遺言書に記載することによって法律上の効力が生じる事項」は、法律や判例によって定められています。
これを「法定遺言事項」といいます。
「法定遺言事項」以外の内容を遺言書に記載しても、「法律上の効力」は生じません。
「法定遺言事項」の内容を具体的に説明しますと、以下のとおりです。
(1)財産に関する事項
① 遺贈
遺贈とは、遺言によって財産を贈与することです。
「Aに財産を遺贈する。ただし、Aは財産の遺贈を受けることの負担として、Bが死亡するまで同居して扶養すること。」というような負担付きで遺贈することもできます。
また、「Aに財産を遺贈する。ただし、Aが遺言者よりも先に死亡した場合は、Bに遺贈する。」というような条件付きで遺贈することもできます。
② 相続分の指定及び第3者への指定の委託
各相続人の相続分(相続財産を承継できる割合)は法律によって定められていますが、遺言によって、法律と異なった各相続人の相続分を定めることができます。
また、遺言によって、「各相続人の相続分を定めることを第3者に委託すること」もできます。
③ 遺産分割の方法の指定及び第3者への指定の委託
遺言によって、遺産分割の方法を定めることもできますし、第3者にその方法を定めることを委託することもできます。
「遺産分割の方法」の代表的なものは、下記のとおりです。
(一)現物分割(財産をそのままの形で単独の相続人が承継する方法)
(二)換価分割(財産を売却して現金を承継する方法)
(三)代償分割(財産を多く承継した者が少なく承継した者に対して現金を支払うことによって、少なく承継した者の不足分を補う方法)
(四)共有分割(財産をそのままの形かつ共有する形で承継する方法)
また、遺産分割の典型的な方法でありますが、遺言によって、「特定の財産を特定の相続人に相続させること」ができます。
④ 遺産分割の禁止
遺言によって、特定の財産が分割されて相続されることを禁止することができます。
遺言によって禁止できる期間は、相続が開始された時から5年を超えない期間と定められています。
⑤ 信託の設定
財産の信託とは、「財産を特定の者(信託銀行等)に渡して、一定の目的を達成させるために運用・管理をさせて利益を受け取ること。」などをいいます。
遺言によって、財産の信託を設定することもできます。
遺言による財産の信託は、遺言者の家族の中に障害者や未成年者などの自立することが困難な人がいる場合、利益を受け取る人を自立することが困難な人に指定して、遺言者の亡くなった後の家族の生活が破綻しないようにするために広く利用されています。
⑥ 遺贈に対する遺留分減殺請求の方法の指定
複数の財産の遺贈によって、相続人の遺留分(遺言などによっても奪うことができない最低限度の相続できる分)が侵害されている場合、相続人が遺留分減殺請求(侵害された相続分の回復の請求)を行うにあたっては、原則として、各遺贈された財産の価格の割合に応じて行わなければなりません。
この点、遺言によって、遺留分減殺請求の対象となる財産の順序と割合を指定することができます。
※「遺留分」及び「遺留分減殺請求」の詳細については「遺留分」のページを参照してください。
⑦ 特別受益の持ち戻しの免除
相続人が被相続人から遺贈を受けていたり、生前に特別な形で贈与を受けていた場合、原則として、その対象となった財産は相続財産の一部とみなされた上で、「相続分の前渡し(特別受益)」と判断されます。これによって、その相続人の相続できる分が減少することになります。
この点、遺言によって、遺留分を侵害しない範囲内で、「相続分の前渡し(特別受益)」と判断されることを免除することができます。
※「特別受益」などの詳細については「特別受益」のページを参照してください。
⑧ 生命保険金の受取人の指定変更
遺言によって、生命保険金の受取人を変更することができます。
⑨ 共同相続人間の担保責任の指定
遺産分割がなされると、各共同相続人は、他の共同相続人に対して売主と同じく、その相続分に応じて担保する責任を負います。
また、各共同相続人は、その相続分に応じて、他の共同相続人が遺産分割によって受けた債権について、その分割の時における債務者の資力を担保する責任を負います。
さらに、担保責任を負う共同相続人の中に償還する資力がない者があるときは、償還することができない部分は、求償者及びその他の資力のある者が、それぞれの相続分に応じて分担することになります。
この点、遺言によって、各相続人が負担する担保責任の内容などを定めることができます。
⑩ 一般財団法人の設立
遺言によって、一般財団法人を設立することができます。
この場合、遺言執行者(遺言の内容を実現する人)が遺言者の死亡後に一般財団法人の設立の手続を行うことになります。
⑪ 祭祀主宰者の指定
お墓や仏壇や神棚などの祭祀財産を承継して祖先の祭祀を主宰する人を祭祀主宰者といいます。
遺言によって、次の祭祀主宰者を指定することができます。
(2)相続人に関する事項
① 認知
認知とは、婚姻外で設けた子を自らの子供であることを認める意思表示をいいます。
子供が成年者である場合、認知をするにあたっては、子供の承諾が必要になります。
また、子供が胎児の場合には、母親の承諾が必要になります。
遺言によって、認知を行うことができます。
遺言による認知の場合、遺言執行者(遺言の内容を実現する人)が遺言者の死亡後に市町村役場に「認知の届出」をすることになります。
② 相続人の廃除
相続人(遺留分を有する相続人となる予定の子供など)が、被相続人(相続される人)に対して虐待したり、重大な侮辱を加えたり、著しい非行をした場合には、被相続人は家庭裁判所に対して「相続人の相続する権利を剥奪すること(相続人の廃除)」を請求できます。
遺言によって、「相続人の廃除の請求」を行うことができます。
遺言による場合、遺言執行者(遺言の内容を実現する人)が遺言者の死亡後に家庭裁判所に「相続人の廃除の請求」を行うことになります。
③ 相続人の廃除の取消し
家庭裁判所で「相続人の廃除」が認められた後、被相続人(相続される人)はいつでも「相続人の廃除」を取り消すことができます。
「相続人の廃除の取消し」を行うためには、家庭裁判所に請求することが必要になります。
遺言によって、「相続人の廃除の取り消しの請求」を行うことができます。
遺言による場合、遺言執行者(遺言の内容を実現する人)が遺言者の死亡後に家庭裁判所に「相続人の廃除の取り消しの請求」を行うことになります。
(3)その他の事項
① 未成年後見人の指定
未成年後見人とは、未成年者に対して親権を行う者がいないとき、又は、親権を行う者が財産管理権を有していないときに、未成年者の法定代理人になる人をいいます。
未成年者に対して最後に親権を行う人(財産管理権を有している者に限る。)は、遺言によって未成年後見人を指定しておくことができます。
② 未成年後見監督人の指定
未成年後見監督人とは、「未成年後見人の事務の遂行」について監督する人をいいます。
未成年者に対して最後に親権を行う人(財産管理権を有している者に限る。)は、遺言によって未成年後見監督人を指定しておくことができます。
③ 遺言執行者の指定及び第3者への指定の委託
遺言執行者とは、遺言者の死亡後、相続人に代わって、遺言の内容を実現するために必要な行為をする人をいいます。
遺言によって、遺言執行者を指定することができます。
また、遺言によって、遺言執行者を指定することを第3者に委託することもできます。
※「遺言執行者」の詳細については「遺言の内容を実現する人」のページを参照してください。
2、「法定遺言事項」以外の記載
「法定遺言事項」以外の内容を遺言書に記載しても、特段の事情のない限り、法律上の効力は生じません。
ただし、遺言書に記載することが禁止されているわけではありません。
例えば、「法定遺言事項」を記載した後に続いて、
- 「次男は長男に比べて相続分が少なくて不満を感じるかもしれないが、長男夫妻が自分の面倒を最後まで見てくれたからである。この点をくれぐれも理解して、相続財産で揉めることのないようにしてほしい。」
- 「兄弟仲良く暮らして欲しい。」
- 「自分が亡くなった後、お母さんが寂しがるような生活を送らないように子供達全員でできる限り配慮してほしい。」
- 「この土地は先祖代々からの土地である。この土地を粗末に扱ったり、この土地に関して兄弟で争うことなど、ご先祖様も許さないはずである。」
- 「葬儀は、身内だけで簡単にすませて欲しい。告別式などは行わないで欲しい。」
などと「遺言者の希望や考え」を遺言書に付記することができます。
つまり、「法定遺言事項」以外の記載は、単に「法律上の効力が生じない」ということであり、「記載してもよいが、相続人に対して法律上の権利や義務が発生するわけではない。」ということです。
なお、実務上は、遺言書に「法定遺言事項」を記載した後に続いて「遺言者の希望や考え」を付記することが少なくありません。
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