任意整理について
1. 任意整理とは?
「任意整理」とは、裁判所などの公的機関を利用せずに、司法書士などの専門家が本人に代わって相手方(貸金業者等)と交渉をして、今後の債務(借金等)の返済方法について和解をする債務(借金等)の整理方法をいいます。
(簡単にいえば、「任意整理」とは、「今後の借金の返済方法について専門家が代理人として和解交渉をする。」ということです。)
なお、司法書士などの専門家が任意整理をする場合には、以下の手順を踏むことになります。
- ① 貸金業者に対して「借金の整理の依頼を受けたこと」及び「今後、依頼者に対して直接的な取立行為を厳に慎むこと」を通告して、貸金業者の依頼者に対する取立行為を中止させる。
- ② 貸金業者に対して依頼者に関する取引履歴(依頼者と貸金業者との間の取引の経過の記録)を開示するように請求する。
- ③ 開示された取引履歴を利息制限法の制限利率に引き直して元本充当計算を行い、借金の残額(元金の残額)を確定させる。
- ④ 確定させた借金の残額(元金の残額)以下の金額を和解金額(今後の返済総額)とする和解案を貸金業者に提示して和解交渉を開始する。
- ⑤ 和解成立後、貸金業者との間で和解契約書を作成する。
- ⑥ 和解金額を貸金業者が指定する銀行口座に振込送金する。
2. なぜ、任意整理をすると借金を減額させることができるのか?
「なぜ、任意整理をすると借金を減額させることができるのか?」を理解するためには、その前提として、いわゆる 「グレーゾーン金利」に関して理解することが重要になります。
そこで、ここでは、
- ①「利息制限法」
- ②「貸金業者が利息制限法の制限利率に反して営業を行っている理由」
- ③「貸金業者がみなし弁済規定の定める条件を満たしていないと判断する判例」
- ④「貸金業者にみなし弁済規定が適用されない場合の効果」
という4つの視点から「グレーゾーン金利」に関する説明をしておきますので、「任意整理」によって借金を減額させることを考えている人は、何度も繰り返し読み見直して、しっかりと理解できるように努めて下さい。
① 利息制限法
「利息制限法」という法律は、その名前どおりに、貸金の利息を制限する法律です。
具体的には、貸付金額の元本の金額を基準にして、以下のとおりに貸付利率の上限を定めています。
元本の金額 | 利率 |
---|---|
10万円未満 | 年率20% |
10万円以上100万円未満 | 年率18% |
100万円以上 | 年率15% |
そして、「利息制限法」は「強行法規」(当事者間でこれに反する約束をしてもその約束は無効とされる法律)という法的な性格を有しています。つまり、「利息制限法」が定める制限利率を超える利息の契約が貸金業者と借主との間でなされたとしても、その制限利率を超えた部分の利息の合意は無効ということになります。
この点について具体例をあげて説明しますと、例えば、貸金業者から年率28%の契約で金50万円を借りた場合、「利息制限法」によれば元本10万円以上100万円未満の場合には年率18%まで利率が制限されますから、貸金業者は借主との間で契約した年率28%の利息を受け取ることは許されず、年率18%までの利息しか受け取ることができなくなります。
よって、借主が1年間借り入れをした場合には、借入金額50万円の18%の金額である金9万円の利息だけを貸金業者に支払えばよく、契約利率の28%の金額である金14万円の利息を借主は貸金業者に対して支払う必要はないということになるのです。 (なお、借主が貸金業者からの請求に従い「利息制限法」の制限利率を超過して利息を支払った場合には、その超過している部分の返済金は元本に充当されることになります。 よって、上のケースにおいては、借主が借り入れてから1年後に約定利息金の金14万円を支払った場合には、その内の金9万円が利息への返済金となり、残りの金5万円は元本への返済金ということになります。)
但し、「利息制限法」は「刑事罰」を伴わない規定なため、貸金業者が利息制限法に反して金銭を貸付けても、そのことから直ちに貸金業者に「刑事罰」が科されることはありません。
この「利息制限法」という法律は、消費者金融会社、クレジット会社に対しての借金を整理していく上で最も重要な法律ですので、しっかりと理解しておくことが大切です。
②「貸金業者が利息制限法の制限利率に反して営業を行っている理由」
「①」で説明しましたとおり、「利息制限法」という法律は貸金業者が受け取れる利息を年率15%~20%まで制限しています。
にもかかわらず、消費者金融会社、クレジット会社などの貸金業者は、新聞や雑誌、テレビのCMなどを通して、「利息制限法」の制限利率に反する年率27~28%前後の利率を公然と表示して営業をしています。
これは、一体どういうことなのでしょうか?
(この点については、「利息制限法」という法律の存在を知った人であれば、誰でも疑問に思うところであるとおもわれます。)
これは、「出資の受け入れ、預り金及び金利等の取締まりに関する法律第5条」(以下は「出資法第5条」といいます。)及び「貸金業の規制等に関する法律第43条」(以下は「みなし弁済規定」といいます。)という2つの法律の存在が関係しています。
まず、「出資法第5条」について説明しますと、この法律は貸金業者の金利を「刑事罰」をもって制限しています。
しかし、この法律には、貸金業者が「利息制限法」の制限利率を超えて金銭の貸し付けを行った場合に「刑事罰」を科すと定めているのではなく、貸金業者が「年率29,2%を超えて金銭の貸し付けを行った場合に初めて「刑事罰」を科すと定めているだけなのです。
(なお、「①」でも説明しましたとおり、「利息制限法」は「刑事罰」を伴わない規定なため、貸金業者が利息制限法に反して金銭を貸付けても、そのことから直ちに貸金業者に「刑事罰」が科されることはありません。)
つまり、法律上は、貸金業者が「利息制限法」の制限利率を超えて金銭を貸付けても、「出資法第5条」が定める制限利率の「年率29,2%」の範囲内で金銭を貸付けている限り、貸金業者に「刑事罰」が科されることはないということなっているのです。
次に、「みなし弁済規定」について説明しますと、この法律は「利息制限法」の制限利率の例外を定めています。
具体的には、貸金業者が一定の条件を満たして営業をしている場合には「利息制限法」が定める制限利率を超えて借主から利息を受領してもよいと「みなし弁済規定」は定めているのです。
この「みなし弁済規定」が定める各条件を簡単に説明しますと、
- 登録された貸金業者が営業として金銭を貸し付けたこと。
- 各貸付について、法律で定められた各事項を正確に記載した「契約書面」を貸金業者が借主に契約締結後、遅滞なく交付していること。
- 各返済について、法律で定められた各事項を正確に記載した「領収書」を貸金業者が借主にその都度、直ちに交付していること。
- 借主が利息制限法を超過する金銭を「利息」又は「損害金」として指定して支払ったこと。
- 借主が利息制限法を超過する金銭を「任意」に支払ったこと。
などです。
つまり、法律上は、この「みなし弁済規定」が定める各条件を貸金業者が全て満たして営業をしている限り、「利息制限法」の制限利率を超えて借主から利息を受け取ることができるということになっているのです。
以上のことから分かるように、消費者金融会社やクレジット会社は、この「出資法第5条」及び「みなし弁済規定」という法律を根拠にして「我々は、利息制限法の制限利率を超えて営業をしているが、出資法第5条の制限利率である「年率29,2%」の範囲内で営業をしているから「刑事罰」が課されることはない。
また、我々は「みなし弁済規定」が定める全ての条件を満たして営業をしているから、利息制限法の制限利率を超えて借主から利息を受け取ることができる。」ということを主張して、利息制限法の制限利率を超える年率27~28%前後の利率を公然と表示して営業をしているのです。
なお、この消費者金融会社やクレジット会社の契約金利、つまり、利息制限法の制限金利(年率15%~20%)と「出資法第5条」の制限金利(年率29,2%)の間の金利のことを「グレーゾーン金利(灰色金利)」と一般に呼ばれています。
これは、貸金業者に「みなし弁済規定」の適用が認められれば借主から受領することが許されるが、貸金業者に「みなし弁済規定」の適用が否定されれば受領することが許されない金利であり、すなわち「法的に借主から受領することが許されるのか?許されないのか?」・「法的に「白」なのか?「黒」なのか?」が、はっきりしない金利であることから「グレーゾーン金利(灰色金利)」と呼ばれているのです。
③「貸金業者がみなし弁済規定の定める条件を満たしていないと判断する判例」
「②」で説明しましたように、貸金業者は「我々は、みなし弁済規定が定める条件を全て満たして営業をしているから、利息制限法の制限利率を超えて借主から利息を受け取ることができる。」ということを主張して「グレーゾーン金利」で公然と営業をしています。
しかし、裁判上においては、全国各地の裁判所がこの貸金業者の「みなし弁済規定」に関する主張を悉く斥けて「貸金業者はみなし弁済規定の定める各条件を満たして営業をしていない。」と判断し、貸金業者の「利息制限法」の制限利率を超える利息の受領を認めていません。
そして、最高裁判所の判例においても、貸金業者の「みなし弁済規定」に関する主張を斥ける判例が、下記のとおり、近年相次いで出されています。
- 平成16年2月20日 最高裁判所 第二小法廷判決
(平成14年(受)第912号、平成15年(オ)第386号 不当利得返還請求事件) - 平成17年12月15日 最高裁判所 第一小法廷判決
(平成17年(受)第560号 不当利得返還請求事件) - 平成18年01月13日 最高裁判所 第二小法廷判決
(平成16年(受)第1518号 貸金請求事件) - 平成18年01月19日 最高裁判所 第一小法廷判決
(平成15年(オ)第456号、平成15年(受)第467号 貸金請求事件)
これらの最高裁判所の判例の全ては、「貸金業者がみなし弁済規定の定める各条件を満たしているかどうかについての判断は厳しく行わなければならない。」ということを明らかにし、「貸金業者はみなし弁済規定の定める各条件を満たして営業をしていない。」と判断して、貸金業者の「利息制限法」の制限利率を超える利息の受領を認めませんでした。 (なお、これらの最高裁判所の判決は、「最高裁判所のHPの裁判例情報」により参照できます。)
以上の通り、現在の判例上においては「貸金業者はみなし弁済規定の定める各条件を満たして営業をしておらず、貸金業者の利息制限法の制限利率を超える利息の受領は認められない。」と判断しているのです。
つまり、「グレーゾーン金利」は無効であり、認められないことが裁判上において明らかにされているのです。
④「貸金業者にみなし弁済規定が適用されない場合の効果」
「③」で説明しましたとおり、貸金業者には「みなし弁済規定」が適用されず、「利息制限法」の制限利率を超える利息を受け取ることができないことが裁判上において明らかにされました。
では、借主が貸金業者からの請求に従い「利息制限法」の制限利率を超過して利息を支払っていた場合には、その後、どのような効果が生じるのでしょうか。
この点については「①」でも説明しましたように、利息制限法の制限利率を超過している利息部分の返済金については元本に充当されることになります。
この点について具体例をあげて説明しますと、例えば、貸金業者から年率28%の契約で金50万円を1年間借り入れた場合、利息制限法によれば元本10万円以上100万円未満の場合には年率18%まで利率が制限されますから、貸金業者は借主との間で契約した年率28%の利息を受け取ることは許されず、年率18%までの利息しか受け取ることができなくなります。
よって、借主は、1年後に、借入金額50万円の18%の金額である金9万円の利息だけを貸金業者に支払えばよく、契約年率の28%の金額である金14万円の利息を貸金業者に支払う必要はありません。
そして、仮に借主が貸金業者からの請求に従い約定利息金額の金14万円を支払ってしまった場合には、その内の金9万円だけが利息への返済金となり、残りの金5万円は元本への返済金ということになります。
つまり、その金14万円の返済後の貸金業者に対する借入金額の残高は「金45万円の元本のみ」ということになるのです。 そして、その後も、金45万円(元本)に年率18%の利息だけを借主は貸金業者に対して支払えばよいということになるのです。 (当然のことながら、借主がその金14万円の返済をした際、貸金業者は「みなし弁済規定」を根拠にその返済金の全ては利息の支払いであるから借入金額の残高は金50万円(元本)であると主張して、その後も金50万円に年率28%の利息を加算して借主側に請求をし続けますが、法律上、借主はその貸金業者からの請求を拒否することができるということなっているのです。)
なお、この「利息制限法の制限利率を超過している利息部分の返済金については元本に充当される。」ということから、以下のことが明らかになります。
消費者金融会社及びクレジット会社は概ね「年率28%前後」の利息で営業をしており、他方で利息制限法の制限利率は「年率18%前後」であり、借主は年間にして「年率10%前後」以上もの利息金を多めに支払っていることになる。
その多めに支払っている利息金は随時元本に充当されることになるから、その分、借入金額の残高(元本)は随時下がっていることになる。
長期間に渡って消費者金融会社及びクレジット会社に対して返済を行っている借主の場合には、大幅に借入金額の残高(元本)が下がっていることになり、場合によっては、借入金額の残高(元本)が無くなっており「完済」していることもありうることになる。
(なお、事案(取引の内容や約定利率)にもよりますが、計算上においては、貸金業者との間で取引が絶え間なく「約6年間」継続している場合には、借金の全額を「完済」している可能性が高いことになります。
「具体例」を挙げますと、仮に年率29.2%の約定利率で金50万円を借り入れて、その後、毎月、「約定の利息分」だけを返済し続けた場合(つまり、元本は1 円も支払わずに利息だけの返済を続けた場合)には「5年5ヶ月間」で借金の全額が「完済」されていることになります。)
※ 以上にあげた「具体例」については「計算書」を参照(クリック)してみてください。
さらに長期間に渡って貸金業者に対して返済を行っている借主の場合には、借入金額の残高(元本)が無くなっており既に「完済」しているにもかかわらず返済を続けていることになり、払い過ぎたお金が発生するということになる。
(これが、いわゆる「過払い金」というものです。この「過払い金」については、「③」で紹介した最高裁判所の判決を含めて、全国各地の裁判所が「借主は貸金業者に対して過払い金の返還を請求することができる。」と判断する判決を相次いで下しています。)
まとめ
以上の「①~④」までに説明してきたことを簡単にまとめますと、貸金業者には「みなし弁済規定」が適用されず「グレーゾー ン金利」(利息制限法の制限利率を超過する利息)は認められないことから、借主が消費者金融会社やクレジット会社に対して返済をしなけらばならない本当の 借金の金額は、消費者金融会社やクレジット会社から請求されている金額(「約定利率」によって計算された金額)ではなく、取引を開始した当初から借主が返 済をし続けてきた「グレーゾーン金利」への返済金を元本に充当して再計算された金額であるということになるのです。
このことから、消費者金融会社やクレジット会社から実際に請求されている金額(約低利率によって計算された金額)ではなく、正確な借金の金額(依頼者と貸金業者のとの間の取引の経過を利息制限法の制限利率に引き直し計算をして減額された借金の残額)で今後の借金の返済方法について消費者金融会社やクレジット会社と「和解交渉」を行うことが可能となり、すなわち「任意整理」をすると借金を減額させることが可能になるのです。
※なお、HPを御覧になっている方が「裁判上、貸金業者に「グレーゾーン金利」が認められていないこと。」及び「依頼者が専門家と一緒になって努力をすれば、貸金業者から「過払い金」が回収できること。」の理解を深めるために、当事務所の代表司法書士が借主の代理人として「訴訟」を提起して貸金業者から「過払い金」を回収した事件の「判決文」等を以下のとおりにご紹介しておきます。
3. 任意整理の基準
「任意整理」に関しては、「日本司法書士会連合会」などが以下のような「任意整理統一基準」を定めています。
従って、専門家が任意整理を行う際には、以下の基準を守って手続を進めることになります。
なお、以下の基準の趣旨を簡単に説明しますと、「利息制限法の制限利率(年率18%前後)を超える利息の支払を認めず、元本充当計算を徹底して借金を減額させて、さらには遅延損害金及び将来利息を付けないことにより、依頼者にとって返済可能な和解案を提示する。」ということです。
また、和解金額(今後の返済総額)を「分割払い」にする場合の返済期間については特に基準が定められていませんが、実務上は、概ね「3年間~5年間」を目安として和解案が提示されています。
日本司法書士会連合会 任意整理統一基準
- 「取引履歴の開示」
取引当初からの全ての取引履歴(取引経過の記録)の開示を貸金業者に対して求めること。 - 「残元本の確定」
当初からの取引の経過を利息制限法の制限利率によって元本充当計算を行い、債務額(借金の額)を確定させること。なお、確定時は最終取引日を基準とする。 - 「和解案の提示」
和解案の提示にあたっては、それまでの遅延損害金、並びに、将来利息は付けないこと。
4. 任意整理を成功させるための条件
「任意整理」とは裁判所などの公的機関を利用せずに専門家が本人に代わって貸金業者と和解交渉をすることですので、自己破産や個人民事再生のような裁判上の手続の場合とは異なり、手続を成功させるために依頼者に求められる絶対的な条件はとくにありません。従って、基本的には、誰でも任意整理をすることができます。
但し、任意整理を成功させるための「実質的な条件」として以下の2点が挙げられます。
(1)和解金を支払うための資金を用意できること
任意整理を成功させるためには、大前提として、和解金を支払うための資金を依頼者側が用意できることが必要となります。
具体的には、依頼者が各貸金業者に対して負担している正確な借金の総額(依頼者と各貸金業者との間の取引の経過を利息制限法の制限利率に引き直して算出した「借金の総額(元金の総額)」)を向こう「3年間~5年間」に渡る分割払いで完済するだけの資力を依頼者側が有していることが必要となります。
但し、返済資金については、依頼者自身が用意できなくてもよく、依頼者の親族や友人などの援助によって用意する形でも構いません。(現実には、このような形が少なくありません。)
(2)貸金業者との間の取引の経過に関する事実を明らかにする努力を行い続けること
専門家が貸金業者に提示する和解金額(今後の返済総額)を決める際には、依頼がなされる前に依頼者が貸金業者から請求されていた金額ではなく、依頼者が貸金業者に対して負担している正確な借金の金額(依頼者と貸金業者との間の取引の経過を利息制限法の制限利率に引き直して算出した「借金の残額(元金の残額)」)を基準とします。
そこで、専門家は任意整理の依頼があると、依頼者が貸金業者に対して負担している正確な借金の金額を明らかにするために、貸金業者に対して依頼者に関する取引履歴(依頼者と貸金業者との間の取引経過の記録)を開示するように請求します。
しかし、貸金業者が顧客側から取引履歴の開示を求められた場合、「利息制限法の制限利率(年率18%前後)」を超える利息を顧客から受領してきた事実を少しでも隠蔽しようと、取引当初からの取引履歴を開示しなかったり、また、借入額や返済額を改竄した取引履歴を開示してくることが少なくありません。
よって、依頼者が貸金業者に対して負担している正確な借金の金額を明らかにするためには、貸金業者から開示されてきた取引履歴を鵜呑みにすることはできず、その内容の正確性を検証する必要があります。
そして、貸金業者から開示されてきた取引履歴の内容の正確性を検証するためには、依頼者に以下の2点をやってもらうことになります。
- ① 各貸金業者との間の取引経過に関する事実(「取引開始日」「借入額」及び「返済額」などの事実)を具体的に思い出すこと。
- ② 各貸金業者との間の取引経過に関する事実を証明する証拠(「契約書」「領収書」など)を探すこと。
このように依頼者が貸金業者との間の取引の経過に関する事実を明らかにする努力を行うことは、任意整理を成功させるための実質的な条件の一つといえるでしょう。
但し、平成17年7月19日に「貸金業者が保存してある全ての取引履歴を開示しない対応は違法であり不法行為を構成する。」と明確に判示し、全取引履歴を開示しなかった貸金業者に「慰謝料」の支払いを命じる「最高裁判所判決」が下されました。(なお、この「最高裁判所判決」は、「最高裁判所のHPの裁判例情報」により参照できます。)
この「最高裁判所判決」が下されてからは貸金業者の対応も変わってきており、顧客側から取引履歴の開示を求められた場合、すぐに取引当初からの正確な取引履歴を開示してくる貸金業者も増えてきています。
他方で、一部の貸金業者はこの「最高裁判所判決」を無視して全取引履歴の開示を拒否し続けるているところもあり、一部の貸金業者に対する任意整理の場合には、依然として必ずしも油断はできない状況が続いています。
5. 任意整理のメリット・デメリット
(1)任意整理のメリット
- ① 長期間に渡って貸金業者に対して返済を行っている場合には、大幅な借金の減額を期待できる。
利息制限法の制限利率を超える金利で営業をしている貸金業者に対して長期間に渡って借主が返済を行い続けている場合には、それだけ多くの利息制限法の制限利率を超える利息を支払っていたことになりますので、大幅な借金の減額を期待できることになります。
また、場合によっては、借金の全額を「完済」している可能性もあり、さらには、「過払い金」が発生している可能性もありえます。
なお、事案(取引の内容や約定利率)にもよりますが、計算上においては、貸金業者との間で取引が絶え間なく「約6年間」継続している場合には、借金の全額を「完済」している可能性が高く、また、「過払い金」が発生している可能性もありえます。
具体例を挙げますと、仮に年率29.2%の約定利率で借り入れを行い、その後、毎月利息分だけを返済し続けた場合には、「5年5ヶ月間」で借金の全額が完済されていることになります。 - (但し、利息制限法の制限利率の範囲内で営業をしている一部のクレジット会社や銀行などの借金については、そもそも借主が利息制限法の制限利率を超える利息を支払っていたことにはなりませんので、借金の減額は必ずしも期待はできないことになります。
また、商品を分割払いで買ったときなどに生じるクレジット会社に立て替えてもらった代金も、法律上は「借金」ではなく「立替金」となるため、利息制限法の適用はなく、減額することは必ずしも期待はできないことになります。) - ② 財産を手放すことなく借金を整理することができる。
任意整理は、裁判上の手続ではなく、私的な和解交渉ですので、自己破産をした場合のように手続開始後に直ちに強制的に財産が処分されるというようなことはありません。従って、特段の事情がない限り、財産をそのまま所有することができます。 - ③ 一定の資格や法律上の地位に就くことを制限されることがない。
任意整理は、裁判上の手続ではなく、私的な和解交渉ですので、自己破産をした場合のように一定の資格や法律上の地位に就くことを制限されることはありません。- ④ 借金を増大させた理由がギャンブルや浪費によるものであっても手続を成功させることができる。
任意整理は、裁判上の手続ではなく、私的な和解交渉ですので、借金の理由は全く問題にされません。- ⑤ 手続を遂行していく上で依頼者に掛かる負担が小さい。
任意整理は、裁判上の手続ではなく、私的な和解交渉ですので、専門家が手続の全てを代理して行うため、手続を遂行していく上で依頼者が行わなければならないことは基本的にはありません。
また、自己破産や個人民事再生のような裁判上の手続の場合には、依頼者は裁判所に出席し裁判官などと面接する必要がありますが、任意整理の場合には、特段の事情がない限り、借主が裁判所に出席する必要はありません。- (但し、貸金業者との間の取引の経過に関する事実を明らかにする努力は行い続ける必要があります。)
(2)任意整理のデメリット
- ①貸金業者との間の取引期間が短い場合には、大幅な借金の減額を期待できない。
貸金業者との間の取引期間が短い場合には、借主が利息制限法の制限利率を超える利息を過度に支払っていたことにはなりませんので、大幅な借金の減額を期待できないことになります。 (但し、和解金額を一括で返済することを前提に借主が無資力状態であることを繰り返し説明して粘り強く交渉すると、貸金業者によっては大幅な借金の減額(元本の減額)に応じてくることもあります。)
- ②手続を成功させるために必要となる期間について予測がつかない。
端的に言うと「任意整理」は和解交渉ですから、代理人である専門家と相手方である貸金業者との間で今後の返済方法などについて「合意」がなされて初めて手続を成功させることができるものです。
つまり、和解案に対して貸金業者の同意がない限り、手続を成功させることができません。
また、貸金業者が取引当初からの正確な取引履歴(依頼者と貸金業者との間の取引経過の記録)を開示しない限り、依頼者が貸金業者に対して負担している正確な借金の金額(依頼者と貸金業者との間の取引の経過を利息制限法の制限利率に引き直して算出した「借金の残額(元金の残額)」)を明らかにすることができないため、和解案を提示することもできません。
以上のことから分かるように、任意整理という手続の性質上、貸金業者側が和解の成立に向けて前向きな行動をとらなかったり、抵抗してくる場合を考えますと、任意整理の手続を成功させるまでに必要となる期間については、必ずしも事前に予測をつけることができません。
(但し、平成17年7月19日に「貸金業者が全ての取引履歴を開示しない対応は違法であり不法行為を構成する。」と明確に判示する「最高裁判所判決」が下されてからは、顧客側から取引履歴の開示を求められた場合、すぐに取引当初からの正確な取引履歴を開示してくる貸金業者も増えてきています。また、返済期間が5年を超えるような分割払いの和解案を提示するなどの特段の事情がない限り、多くの貸金業者は最終的には「任意整理統一基準」に基づく和解案にそれほど抵抗することもなく応じてきているのが任意整理の現状です。よって、現在は、以前と比べて遙かに任意整理の手続には時間が掛からなくなってきています。)
- ③信用情報機関の保有する個人情報に「事故情報(ブラックリスト)」として登録される。
貸金業者は、信用情報機関の個人情報を主な判断材料の一つとして融資の可否を決定するため、通常、「事故情報」が登録されている間は貸金業者から融資を受けることができなくなります。 但し、「事故情報」が登録されている期間は、一般的には「約5年~約10年間」といわれていますので、その期間が経過して「事故情報」が抹消された後であれば、その時に本人が返済できるだけの資力を有している限り、融資を受けられる可能性は充分にあります。 なお、この「事故情報」として登録されるデメリットは、「任意整理」をした場合に限るわけではなく、「自己破産」や「個人民事再生」などの借金の整理(債務整理)を行った場合に共通するデメリットです。 また、この「事故情報」の登録期間については、借金を整理した方法や信用情報機関によって異なってきます。
6. 任意整理の手続の流れ・期間
任意整理の手続が終了するまでの具体的な期間についてですが、貸金業者が取引履歴を開示しなかったり、和解案に応じない場合もあることから、必ずしも一概に判断することはできません。
但し、貸金業者が抵抗することもなく順調に手続が進んだ場合には、依頼がなされてから「約2ヶ月間」で和解が成立して手続が終了することもあります。
任意整理の手続の一般的な流れ
① 受任通知の発送・取引履歴の開示請求
各貸金業者に対して「借金の整理の依頼を受けたこと」及び「今後、依頼者に対して直接的な取立行為を厳に慎むこと」を口頭及び書面で通知して、各貸金業者の依頼者に対する取立行為を中止させる。
同時に、各貸金業者に対して依頼者に関する取引履歴(依頼者と貸金業者との間の取引の経過の記録)を開示するように請求する。
② 正確な借金の金額の確定
各貸金業者から開示されてきた取引履歴の内容が正確であるかを検証し、正確なものと認められる場合には、依頼者と各貸金業者との間の取引の経過を利息制限法の制限利率に引き直して元本充当計算を行い、各貸金業者に対する借金の残額(元金の残額)を確定させる。
③ 和解交渉の開始
確定させた借金の残額(元金の残額)以下の金額を和解金額(今後の返済総額)とする和解案を各貸金業者に提示して、今後の返済方法について各貸金業者ごとに和解交渉を開始する。
④ 和解成立
和解が成立した各貸金業者との間で、順次、和解契約書を作成する。
⑤ 和解金額の返済
和解が成立した各貸金業者に対して、順次、和解金額を各貸金業者が指定する銀行口座に振込送金する。
7. 任意整理の現状
(1)終了するまでの期間について
専門家が貸金業者に提示する和解金額(今後の返済総額)を決める際には、依頼がなされる前に依頼者が貸金業者から請求されていた金額ではなく、依頼者が貸金業者に対して負担している正確な借金の金額(依頼者と貸金業者との間の取引の経過を利息制限法の制限利率に引き直して算出した「借金の残額(元金の残額)」)を基準とします。
そこで、専門家は任意整理の依頼があると、依頼者が貸金業者に対して負担している正確な借金の金額を明らかにするために、貸金業者に対して依頼者に関する取引履歴(依頼者と貸金業者との間の取引経過の記録)を開示するように請求します。
ところが、これまでの貸金業者は、顧客側から取引履歴の開示を求められた場合、「利息制限法の制限利率(年率18%前後)」を超える利息を顧客から受領してきた事実を隠蔽しようと、取引当初からの取引履歴を開示しなかったり、また、借入額や返済額を改竄した取引履歴を開示してくることが少なくありませんでした。
このため、依頼者が負担している正確な借金の金額を明らかにすることができず和解交渉を進めることができないため、任意整理の手続が終了するまでには著しく時間が掛かることを覚悟しなければなりませんでした。
しかし、平成17年7月19日に「貸金業者が保存してある全ての取引履歴を開示しない対応は違法であり不法行為を構成する。」と明確に判示し、全取引履歴を開示しなかった貸金業者に「慰謝料」の支払いを命じる「最高裁判所判決」が下されました。
(なお、この「最高裁判所判決」は、「最高裁判所のHPの裁判例情報」により参照できます。)
この「最高裁判所判決」が下されてからは貸金業者の対応も変わってきており、顧客側から取引履歴の開示を求められた場合、すぐに取引当初からの正確な取引履歴を開示してくる貸金業者も増えてきています。
よって、現在は、依頼者が貸金業者に対して負担している正確な借金の金額を明らかにすることができやすくなってきているため、以前よりかは遙かに任意整理の手続には時間が掛からなくなってきています。
(但し、一部の貸金業者は前記の「最高裁判所判決」を無視して全取引履歴の開示を拒否し続けるているところもあり、一部の貸金業者に対する任意整理の場合には、依然として必ずしも油断はできない状況が続いています。)
(2)貸金業者の対応について
「任意整理」は和解交渉であることから、代理人である専門家と相手方である貸金業者との間で今後の返済方法などについて「合意」がなされて初めて手続を成功させることができるものです。
つまり、和解案に対して貸金業者の同意がない限り、手続を成功させることはできません。
そこで、依頼がなされる前に依頼者が貸金業者から請求されていた金額ではなく、依頼者が貸金業者に対して負担している正確な借金の金額(依頼者と貸金業者との間の取引の経過を利息制限法の制限利率に引き直して算出した「借金の残額(元金の残額)」)を和解金額(今後の返済総額)とする和解案を代理人である専門家が貸金業者に対して提示した場合(つまり、「任意整理統一基準」に基づく和解案を提示した場合)、現実に、貸金業者が応じるのかが問題となります。
この点については、
- (Ⅰ)「任意整理統一基準」に反するような返済計画を立てても資力の乏しい依頼者が遂行することは困難であるため、「任意整理統一基準」に基づく和解案を拒否した場合には依頼者が「自己破産」をする可能性があり、その場合には全く返済されなくなってしまうリスクがあること
- (Ⅱ)「任意整理統一基準の存在」及び「任意整理統一基準に従って専門家が職務を遂行しなければならないこと」は、ほとんどの貸金業者に知れ渡っていること
などの理由により、返済期間が5年を超えるような分割払いの和解案を提示するなどの特段の事情がない限り、多くの貸金業者が最終的には「任意整理統一基準」に基づく和解案に応じているのが任意整理の現状です。
(但し、全ての貸金業者が「任意整理統一基準」に基づく和解案に全く抵抗することもなく応じているわけではありません。)
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